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スローな家づくり

スローな家づくり

スローな家づくり

スローな家づくり

住宅雑誌 NewHOUSE(ニューハウス出版)
2004年1月号掲載

スローな家づくり

第1回 建て主リポート「土地を探す」
写真・文●トランローグ・アソシエイツ

“食べる庭”のある家が欲しい。

 都会育ちの妻と田舎育ちの夫が世界中の都会と田舎を旅してまわり、そしてオフィスは東京、自宅は南房総と決めた。'97年、バブル崩壊後日本経済がいよいよ混迷のどん底を感じさせた頃、私たち夫婦(当時34歳)に長男が誕生した。そしてその週末、クライアントからの電話が鳴った。「すみませんが、進行中のプロジェクトは中止です……」デザイン会社を経営して間もない私たちは、途方にくれながらも内心は確信していた。「開発中心の日本経済が無限に成長するはずがない。今の私たちには自然と共に生きるスローな暮らしが必要だ」と。そして、若い頃から自給生活に憧れていた私たちは、結婚以来6年間貯めてきた貯金を有効に活用し、田舎に菜園のある自宅を建てることを決めた。田舎暮らしに不安も感じていた私たちは、当時住んでいた東京・世田谷区でマンションを購入することも検討した。しかし、例えば4500万円のマンションを購入するためにローンを組んだ結果、生涯に支払う返済額が6000万円になることが分かった時点で迷いは消えた。「金融機関に支払うことになる利息を含む1500万円、それ以下の費用で、自給生活気分が味わえる土地に親子3人が暮らせる最小限の家を建てようよ」「世界中の風土に根付いた家を見て旅した、その知恵を生かした家づくりを始めよう」こうして私たち親子3人のスローな家づくりはスタートした。

東京駅から1時間、200坪の土地探し。

 土地探しは4年に渡った。初めは、北は那須高原や八ヶ岳南麓から南は西伊豆まで、鉄道駅から遠く離れた峡谷や海岸近くの景勝地などを訪ねてまわった。土日を利用してマイカーで行く子供連れの土地探しは、ピクニック気分でそれだけでも十分楽しめた。しかし、土地の交通状況と値段を知るにつけ、私たちに必要なのはオフィス近くの東京駅から電車で1時間、そこから車で10分程度の距離にあり、小さな家とちょっとした野菜 づくりのできる面積200坪ぐらいの土地である、と考えるようになった。私たちは電車通勤なら乗車1時間以内であれば、何とか毎日でも通勤できると思っていた。当時住んでいた世田谷から東京駅付近のオフィスまで移動すれば、バスといくつかの地下鉄を乗り継ぎ、1時間は掛かっていたからだ。また、南房総の山林や農地の値段は坪2万円ぐらいからが相場、と乗車1時間程度の距離としては格安だから、200坪400万円ぐらいの土地であれば、建物を60 0万円ぐらいに抑えると、1000万円で土地と建物も夢ではないことが分かってきた。このような条件で敷地エリアはJR上総一宮駅近辺に絞り込まれた。九十九里浜から南房総を旅したことのある方であればご存知であろう。上総一宮の北と南で海岸線の風景は大きく変わる。北は九十九里浜という世界的にも希な、ビーチの連続する広大な景観の中、1年中サーファーが絶えない。他方、その南は岩場の連続で釣りのメッカとなっている。また、内陸に入れば、穏やかな気候と里山の風景が連続し、スローライフ*1に憧れていた私たちにとっては絶好の場所だった。
  たくさんの土地との出会いは、たくさんの不動産会社との出会いでもあった。田舎暮らしサポートを専門とする親身な不動産会社もあれば、市街地で売れ残った土地を「田舎暮らしに最適」とうたってはみたものの、立地条件の悪い安い土地なだけに消極的な営業姿勢で頼れない会社もあった。そんな中で1社、「上総一宮近辺で海から近く、海風の吹かない里山の一角にいい土地がないかしら」「看板や電柱の少ないキレイな景観がいいね」という私たちからの一本の電話リクエストに応えて、一度に4カ所の候補地を紹介してくれた不動産会社があった。脱サラして横浜から転居したカントリーライフの大谷さんだ。彼の紹介物件は、いずれも谷やつと呼ばれる小さな山と山のすき間を耕した休耕田だった。中でも600坪800万円の土地が気に入った。周囲には昔ながらの集落があって寂しさを感じさせず、刈り終えた田んぼと山の紅葉が抜群に美しかった。しかし、800万円は高すぎた。様ざまな物件を見てまわったが、結局その土地以上の物件には出会えず、ようやく1年後に購入を決意して大谷さんに電話した。「もう売れちゃいました。近くに新しい土地が出ていますから見に行ってください」このとき初めて、一度購入を決意した土地が人手に渡ってしまった悔しさを味わったが、先に進むしかない。大谷さんから送られたファクスを頼りに土地を見に行った。

北に山、南に開かれ小川の流れる理想的な場所。

 土地を一目見るなり私たちは、「まるで風水の教科書どおりの土地じゃない」「今まで捜し求めてきたものすべてがコンパクトに集約されたような土地だな」と感じていた。土地の北側にはスギ林が海からの風を防ぎ、西日を遮る木立もある。南側には小川が流れ、水田が広がっている。聞けば、初夏には数え切れないほどのホタルが乱舞するという。スローライフの出発点としては、まさにうってつけの場所だった。公簿上*2は180坪で目標の200坪には及ばなかったが、270万円と、とにかく安かった。それに、当地は上総一宮駅から車で7分、海まで10分程度と申し分ない。また、上総一宮駅から特急や快速に乗れば、100%座れるのも重要なポイントだ。しかし、ここで注意したのは、土地代が安くても、人が住める敷地にするために土地改良を含めた造成費用が掛かることだった。谷やつには山からの水が流れ込み、休耕田なので表面には腐葉土が堆積し、水はけが悪い。そこで大谷さんに住居にふさわしい土地にするための造成費用を概算してもらった。
草木の伐採や腐葉土の搬出など手間賃一式で約40万円。棚田状の法のり面の地滑りを防ぐ頑強なL字型コンクリート擁壁が約40万円。搬出した土の代わりに土地を固める土が約30万円。敷地周囲の山から流れ込む雨水用排水溝が約10万円。これに土地代、農地転用などの諸経費を足すと合計約400万円。建築費を足しても目標予算に収まりそうな金額だった。「この土地を売ってください」。そう依頼してから購入に至るまでがまたスローな道のりだった。休耕田にはよくある話らしいが、所有者が亡くなり、当然相続していると思っている長男だが、実際には土地登記簿上は、亡くなった親の所有のままである。慌てて家族会議を開くが、様ざまな事情でなかなか話が進まない。今回も同様の経緯で契約申し込みから約半年後にようやく仮契約、農地転用申請へとこぎつけた。しかし、ここからがまた長い。地主との契約が成立しても、土地の境界線を決定する作業に時間が掛かる。当地は東、北、西に異なる所有者による隣地と接し、さらに当地を通らなければ行けない北側の2区画奥の所有者による境界線と公道の確認が必要なのだ。大谷さんと役場担当者出席の下、隣地所有者に立会いをお願いするのだが、西側所有者だけは、山の土地には興味がないらしく、「どうでもいいよ」といった具合で、毎回欠席。その度に出席者にご迷惑を。次第に私たちも申し訳ない気持ちになってくる。数カ月経っても進展しないため、結局は公簿に基づく測量によって境界線を決定することになった。

決定された境界線を確認し、本契約へ。

 契約申し込みかちょうど1年が過ぎていた。'02年3月。行政書士立ち会いの下、地主と契約書を交し、費用を支払い、私たちは晴れて地主となった。造成が始まったのは6月後半だった。梅雨時から秋口にかけての工事は、施工者には大変だ山からの水の流れを観察するにはいい時期だった。長い期間放置されていた地表近くには、水道みずみちと呼ばれる下水の通り道ができている。水を蓄えた表土を剥がし、次水道ずみちを上から押し潰す。そして人工的に造ったU字溝へとの水が流れ込むようにした。一見、自然破壊そのもののよだが、水害を防ぎ湿気を抑え、建物を建ててそこで安全快に暮らすためには絶対条件だ。また、南面の水路と敷地との間には約30mの幅にわたて高さ1mの擁壁を立てた。これによって地滑りを防止すと同時に約90㎡も敷地の有効面積を広げることができ東西に長い当地では、奥行きを確保するためには極めて有な造成方法だ。大谷さんによれば、擁壁用の既製コンクリトパネルは、道路など公共工事では現在一般化しているそ
だ。量産品のため安く、その都度構造計算を行う必要がなからだ。
 造成は梅雨に始まり初秋に完了した。表面を覆う土には、宅地造成の仕上げとして一般的なササラとした山砂は使わなかった。今後、庭には芝を張り、園をつくる際に不要と考えたからだ。山砂は見た目にはキイだが、養分はない。そこで、多少の養分を含む粘土質のを入れて仕上げとした。そして早速、敷地の中央や四隅な数カ所に芝生を置いてみた。台風の多い年のせいもあって十分な水と日照を得て、芝生は順調に根を張り、1年後のでも青々としている。芝生のことなど考えたこともなかっ私たちは、100坪5万円程度で、これほど簡単に根を張る子に驚いた。私たち親子3人は、造成された敷地に毎週のように出掛て行っては草取りを楽しんだ。これは、今後始まるであろう草との戦いに備えた準備体操のようなものであると同時家を建てるまで1年ぐらいは、土が落ち着くのを待ち、四季通して水がどのように流れ、近所付き合いを含めてどんな期せぬ出来事が起こるかを観察するためでもあった。1年間土地を見ていて最も感心したのは、冬の霜柱の威だ。敷地には粘土の塊がゴロゴロしていたが、霜は直径㎝以上もの塊の内部で膨張と収縮を繰り返して粘土を砕春になる頃には表土はものの見事に真平らに均ならされてしまたのだ。このときほど「自然の力を利用しない手はない」と痛感させられたことはなかった。

スローな家づくり

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スローな家づくり

住宅雑誌 NewHOUSE(ニューハウス出版)
2004年2月号掲載


スローな家づくり

第2回 建て主リポート「敷地を生かす配置と間取り 」
写真・文●トランローグ・アソシエイツ

新生活スローライフの出発点に求める家は?

 東京駅から特急で1時間、快速で1時間20分の外房線・上総一ノ宮駅から車で7分の距離にある休耕田を購入した私たちは、造成を行った後1年間、その土地の環境変化を観察し、建物の配置を考えた。当初、土地+建物で1000万円を目指していたが、土地代と造成費用に約440万円を使ってしまった私たちに残された予算は560万円。そこで、セルフビルドに興味を持っていた私たちは、自力でRC造や木造軸組の自宅を建てた先輩に話を聞いて回った。
 「自分の家を自分でつくる喜びを考えれば、人任せになんかできないよね」「100万円もあれば、基礎工事や建築工事に使う電動工具を含めて6坪の小屋を自作できる。後は予算に合わせて増築すればいい(参考図書:小笠原昌憲著『100万円の家づくり』自然食通信社刊)」という先輩方の自信に満ちあふれた言葉に、私たちは後ろ髪を引かれながらも、初めての家は大工さんに木造軸組で建ててもらうことに決めた。

 セルフビルドを断念した理由は、電気も水道もない場所で、いずれ使わなくなるプレハブの仮小屋を買うかレンタルして、電気や井戸を仮設する金がもったいない、と考えたからだ。それなら、最初の家は将来セルフビルドしたり菜園をつくるためのスローライフの出発点となるような、機能的で無駄のない、夢の描ける家にしようと決めた。そして、東西に長く南西角で公道と接する敷地では、建物を東西どちらに寄せるかが問題になるが、初めての家は西に寄せて西側の林によって西日を防ぎ、南に向かって開かれた敷地を生かして南向きの眺望を楽しみ、アプローチから遠い東側に菜園などを配置することにした。私たちは初めての家を「センターハウス」と呼ぶことにした。そして将来、木造軸組による物置小屋とRC造のゲストハウスをセルフビルドして家づくりは完成とし、センターハウスを第1期工事と位置付けた。そしてセンターハウスに求める機能を集約した結果、最小限でマルチ機能のプランニングが見えてきた。

“田の字プラン”+サニタリー分離

 私たちがセンターハウスに求めたもの。それは、食べる、寝る、仕事する、建築や畑仕事の準備と後片付けをする、物をしまう、友人と遊ぶ、それらのための空間と機能だった。中でも今後、第2第3の小屋をセルフビルドしていく上で重要なのが、材木などを格納し、刻み作業を行うための十分なスペースだった。
 また、日頃から1日の半分を靴を履いて過ごす私たちにとって、畳やフローリングは過剰なものだった。むしろ土間スタイルの暮らしがフィットすることに気付いた。そして、建築コストにも配慮しながら建てやすく使いやすい、農家スタイルの田の字型の間取りを基本に、収納を兼ねた予備室としての小屋裏を設け、腐食しやすい風呂、洗面、トイレ、洗濯などのサニタリーを母屋から分離することにした。土間はベタ基礎のコンクリートをモルタルで仕上げ、10畳の広さの3つの空間をL字型に連続させた。ひとつをキッチンとダイニング、ひとつをリビングと仕事場、ひとつをサンルームとし、この3つの空間は必要に応じて30畳の作業場や物置へと変化する。これに10畳の板の間を足して田の字プランの1階とした。
 2階は10畳の予備室とし、子供部屋にも、来客時の寝室にも、納戸にも使えるように考えた。また、2階には90㎝と比較的幅広のキャットウォークを設け、窓の開閉や照明のメンテナンス時に使用するだけでなく、眺めのいい場所をつくることにした

超ローコスト&高性能で自然派住宅の標準タイプを目指せ!!

 フレキシブルで構造的にも強いシンプルな平面プランを考えながら、建材を探した。かねてより注目していたのがJパネルだ。国産スギの間伐材を使った集成材だが、健康被害を引き起こすホルムアルデヒドを発散する接着剤の使用量はF☆☆☆☆*1の最少レベル。無害とはいえないが、比較的安心な建材だと判断した。36㎜厚で外断熱の効果も抜群、構造用合板として壁倍率2.5倍の認定を受けている構造材で、マルチな建材だ。欠点はそれ自体高額*2であるばかりでなく、全国3カ所にある生産地はいずれも遠く、別途運賃も高額になる点。輸送に伴うガソリン消費や排気ガスによる環境負荷の高い点。しかし、実験的エコハウスを目指す私たちには、どうしても実証したい魅力的な建材だった。さらに、健康と環境に配慮して、直接肌に触れる内外の壁や床・天井はもちろんのこと、構造材や断熱材にもグラスウールやウレタンを使わず、すべてを木材とすることで、自然の調湿効果を最大限に引き出そうと考えた。木の弱点である腐食については、基礎立ち上がりを600㎜として地面からの湿気と虫を防ぎ、土台には腐食しにくいヒノキを使い、仕上げには防虫効果があるといわれる柿渋を塗ることにした。また、基礎立ち上がりや壁に開閉式の換気口を設け、小屋裏には高温時に換気扇を作動させるサーモスタットを付けて室内換気を行うことにより、快適な室内コンディションを保つことにした。さらに屋根の断熱に配慮して2重屋根とし、2層の間に空気層を設けた。そして、柱は4寸、大黒柱に至っては一尺は欲しいと考え、柱はスギ、雨のしみ込みやすいサンルームの角はヒノキとした。
 基本プランが決まると、私たちは土地の手配を依頼したカントリーライフの大谷さんに建築監理もお願いし、彼同席の下、棟梁の高梨さんと3回の打ち合せを行い、間取りや仕上げ、設備について詰めていった。最近は組み立ての簡単な2×4
を専門とする大工さんの方が多く、軸組で建てる高梨さんに引き受けてもらうのはひと苦労だったそうだ。極端に低予算でありながら昔ながらの本格的な在来木造を目指す私たちの熱意を理解してくれた高梨さんは、柱と土台や梁を継いで留める箇所には、「昔ながらの込み栓を使おう。土台は外壁を貼ると見えなくなるからもったいないけどな(笑)。普通は金具で留めるけど、この方が緩まなくていいんだよ」と、のり気になってくれた。

 内装材としては野暮ったい、といわれがちな木にこだわりながらもスタイリッシュで高性能な住まいを目指す私たちは、外壁は雨の染み込みに配慮してスギ下見板貼り、室内は調湿効果を引き出すために真壁とし、スギ板を縦に貼り、仕上げには天然塗料の柿渋に顔料を混ぜた白い塗料で仕上げることによってクールな見栄えに配慮した。自然派高性能住宅を目指す私たちが間取りでこだわったのが、サンルームと縁側として使える板間だった。サンルームは明るさを確保し、冬場に太陽熱を利用して室内を暖めるために。縁側(板間)は夏には床下の通風によって涼しく、冬は通気口を閉じて外気を遮断し、断熱効果を高めるために。造成を通して環境を読み、1年以上掛けて考えたプランは完成した。そして私たちは自ら設計図を描き、自ら役場に工事届を出した。農地や山林は都市計画区域外で建築確認申請が不要なことが多く、建主自ら届出を出すことが可能だ。設計図というと描いたことのない人は、「無理だ!大変だ!」と、お思いだろう。しかし、ここでいう設計図は、住宅の構造や性能を検査する確認申請図面とは関係なく、基本的には大工さんと打ち合わせができる図であればいいのだ。これによって建築士に支払う15万円程度の申請費用も0円で済んだから馬鹿にならない。机上の設計だけでは、本当にその土地に馴染む配置と間取りか否かは分からない。そこで私たち親子3人は、敷地に建物外形の位置を表すロープを張って現場検証を行った。配置で最も配慮したのは、万が一、裏(北側)の山林から水が流れ込んだ場合を考えた北側敷地境界線から建物北奧までの空きの確保、車2台を並列駐車できる西側駐車スペースの確保、今後東側に増築する際に南側から工事車両が通れる道幅の確保だった。そして現場検証の結果、建物周囲に沿ってベタ基礎を増設する犬走りは、水害の心配がある北側を残し、その他を省いた。これによって犬走りの分だけ建物を西側に寄せ、東の庭と南側通路幅を広くした。こうして決定した最終プランに対して見積りを依頼すると、建築費用は約750万円。目標の560万円から190万円もオーバーしたが、高額なJパネルや木製ペアガラス、和紙を両側に貼って断熱性を高めた障子、太い柱梁、ノン・アスベスト屋根材などにこだわったことを考えれば増額は納得できた。そして、多少の値引きに期待しながら、工事を発注した。

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スローな家づくり

住宅雑誌 NewHOUSE(ニューハウス出版)
2004年3月号掲載

 

スローな家づくり

第3回 建て主リポート「工事/ 前編 基礎・木・屋根・建具工事 」
写真・文●トランローグ・アソシエイツ


希望通りに進まなくて当たり前人任せにせず、ひとつずつ解決

 '01年3月に土地購入を申し込んでから2年、ようやく着工の運びとなった。土地を手配してもらった不動産会社の大谷さんに建築監理をお願いし、棟梁の高梨さんに木造軸組構法で建ててもらうために、私たちは自ら設計図を描き、彼らと打合せを重ねた。また、私たち家族3人は自ら敷地にロープを張って建物配置を確認し、配置や間取りを修正した後、'03年5月に最終図面を彼らに渡し、最終見積りをもらい、5月下旬にいよいよ基礎工事を開始した。当初から梅雨時の工事には不安を感じていたが、この年は例年になく長梅雨で、この原稿を書いている年末まで雨の多い1年となった。同時期に横浜で自宅を着工した友人も梅雨のせいで大幅に工事が遅れて予定が狂ったと嘆いていた。しかし、ベタ基礎を打った頃、梅雨の晴れ間の初夏の陽射しはさすがに強烈で、みるみるコンクリートが乾いていくのがわかり、頼もしく見えた。あいにくの悪天候のため、工事はゆっくりと進行せざるを得なかった。これは建築監理には好都合な面もある。家族3人で毎週末、現場に行っては1工程1工程を確認できたからだ。ある時は基礎立ち上がりに設置した通気口の隙間を塞いでもらったり、またある時は腐食を防ぐためにヒノキを使ったサンルーム角の柱を支える基礎を補強してもらったり……。基礎の段階から実に丁寧に進行した。ハウスメーカーの営業に応対したことのある方なら見たことがあるかも知れない。彼らが持参するライバル会社の手抜き工事の現場写真ファイルの多くは基礎、つまり床下の見えない部分のようだ。基礎は文字通り家の礎である、基礎こそ現場監理を徹底したいものだ。
 私たちの現場でも実際にこんなことがあった。基礎の鉄筋の本数が足りなかったので大谷さんに確認したところ、「現状の本数でも土台や柱梁が頑強なので心配ないが、私自身が納得できない」という回答で、すぐにやり直してもらった。
細かい現場調整はあったものの、概ね順調に進行し、7月の第1週にいよいよ棟上げとなった。当日は梅雨時には珍しく朝から快晴だった。朝10時頃、私たちが現場に着くと、柱を建て梁を架け始めるところだった。小さな家なので3人ぐらいの作業になると思っていたが、大型のクレーン車を使って、総勢5名で作業していた。私たちはデザイナーという職業柄、勢いのある現場の雰囲気を逃すまいと、無心にカメラのシャッターを切った。すると、棟梁の高梨さんはテレビ出演の経験があり、写真はカメラを向けられると動けなくなるから困っちゃうな(笑)」といって重労働で疲れた職人たちを和ませた。しかし、そんな余裕とは裏腹に、彼は母屋もやを1本手配し忘れていたことに気づき、慌てて木材店に電話したのだった。現場で感動したのは、真壁をつくり建物を頑強にする横胴縁の合理性と、建物のど真ん中に立ち上がった8寸(約24cm)の大黒柱だ。なお、当初は1尺を予定していたが「そんなに太くなくても大丈夫だよ」と高梨さんにいわれ変更した。

 木材の値段は、高額といわれるヒノキでさえも1本が数千円と安いため、木材でコストダウンを図る必要はないだろう。しかし、さすがに大黒柱だけは1本4万5千円と桁違いに高かった。なお、木材に手で鉋掛けしたり細工をするなど、手間を掛けると値段は上がるから注意したい。棟上げが終わり、後日屋根工事が始まった。自然派住宅を目指す私たちは、昔ながらの粘土を焼いた瓦を使いたかったが、予算の都合でゼロアスベスト軽量厚物瓦(12mm)とした。これは一般的なセメント瓦よりも厚く、予定していた屋根工事業者が持っていたカッターでは切れず業者が代わったが、屋根葺きが遅れ長雨の影響が心配された。また、私たちが描
いた設計図と棟梁が発注した木材との誤差のせいで、サンルームから立ち上がる小屋裏の壁の高さが低くなり、予定していた窓がはまらないことがわかった。しかし、無理に小さな窓や換気口を開けて通風を優先させ、断熱性能を損なうより
も、厚い壁で塞いで断熱性能を向上させることにした。小さな問題は多々あったものの悪天候以外は概ね順調に進行していたが、サンルーム天窓だけはサッシ業者と意見が食い違った。ガラスにした場合の地震によるひび割れを心配して、弾力性のある安価なポリカーボネートを支給する予定だったが、結局は網入りの強化ガラスで決着した。耐久性についても議論したが、本音は「材料を支給されたんじゃ儲けが少ないから手を引く」という考えだったようだ。しかし、1日も早くサンルームに屋根を架けないことには、雨が吹き込み続けるため、最終的にはサッシ業者のいう通りにした。着工から様ざまな施工業者にお世話になったが、費用について特に感じたことは、木材の値段と大工工賃の安さだった。この安さのために国内の林業が衰退して森が荒れ、外材に頼ることになり、腕のいい大工が減少しているとすれば、悲しむべきことだ。しかし、建主にとって安いことはうれしい限りではないか。木をふんだんに使った高性能な住宅を伝統の木造軸組構法で建てる家づくりを、もっともっと再生、進化させるために、私たちは家づくり実験と検証、リポートを続けていきたい。

「東京駅から1時間、200坪の土地。土地+建物で1000万円」
を目標に始めた家づくり。ここまでの費用は約980万円。
果たして、どこまで目標に近づくことができるのか……。

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住宅雑誌 NewHOUSE(ニューハウス出版)
2004年4月号掲載

 

スローな家づくり

第4回 建て主リポート「工事/後編 設備・建具・塗装工事、ゴミ処理
写真・文●トランローグ・アソシエイツ

大切な家づくりの総仕上げ。キーワードは、“シンプル&スマート”

 '03年5月に着工したが、長梅雨に冷夏と雨の多い悪天候が続いたため木工事が遅れ、「まだか、まだか」と設備工事関係者をやきもきさせた。毎週末現場を訪ねた私たちも1日で終わる棟上げのスピードに対して内外装の仕上げに掛かる時間
の長さには、諦めにも近い気分になっていた。親子3人、新居で夏休みを過ごす夢が叶わないことがわかったからだ。そして、ようやく9月初旬から電気、ガス、水道工事を本格的に開始することができた。照明はLDKにカフェ風のペンダント、サニタリーと屋外はスクエアでシンプルな防雨防湿ブラケットで統一し、板間とサンルームは長寿命の電球型蛍光灯を購入。このように設備照明は最少限にし、明るさが不足する場合は、スタンドで対応することにしたが、防犯灯だけは高性能で高額な器具を選択。
  そして、照明器具と手持ちのエアコンや洗濯機、BSアンテナを電気工事業者に支給し、取り付けてもらった。木工事の最中から床や壁の中に配線するため電気工事は同時進行していたので、器具の取り付けは間もなく終了した。今回の工事で最も難航したのが井戸掘りだ。この地域では、深さ約38mまで掘らなければ水量の豊富な地層まで到達しない。浅井戸では水が涸れる心配が付きまとう。地元の人から聞いた話では、深井戸でも江戸時代の大地震で一度涸れたことがあるそうだ。もっとも大地震がくれば、上水道も断水するから気にしないことにした。また、この井戸水には鉄分が含まれ、飲料不可能なだけでなく、衣類を変色させるため洗濯にも適していない。そこで井戸水は除鉄滅菌装置を付けて上水道と同質の水に変えて使用する。なお、分厚く硬質な岩盤をくり抜いて100mも掘れば、非常にきれいな水が出るそうだが、そこまで必要ないと判断した。今回は何度か井戸を掘り直した。一度掘った井戸を蛇口に繋がず使わずにいたため、水が出なくなってしまったり、井戸の途中から雨後の濁り水が入り込んでしまったりと、ライフライン確保の難しさを痛感させられた。だから、蛇口から勢いよくきれいな水が出たときの喜びは井戸水ならではだった。そして、除鉄滅菌以前の井戸水を地元保健所に持ち込み水質検査を行い、安全を確認した。次に合併浄化槽を設置する際、地元用水組合の許可が必要といわれた。農村には用水組合協力金という用水保全のための積立金があり、当地では15万円と高額だった。予定外の出費だが、当地が集落の最上流にあり、目の前の田では上質な米をつくり、ホタルや沢ガニが生息していることを考えて、環境保全のために気持ちよく支払うことにした。そして、コンクリートブロックで母屋から分離したサニタリーに、今流行のシンプルでスタイリッシュなバスタブやシンク、水栓金具を取り付けるといよいよ家らしくなってきた。
  今流にシンプルにまとめたい場合に注意したいのは、とにかく白にこだわることだ。工事関係者は「白は汚れが目立つからベージュがいいよ」と勧めるが譲ってはいけない。私たちもサニタリー設備はすべて白とし、壁は白、床はこれらを引き立てる黒で防水防腐効果のある化学塗料を自ら塗装した。設備選びで楽しいのがキッチンだ。キッチンは業務用設備にしたが、キッチンスペースを含めて1階の大部分をコンクリートの土間としているので重量のある業務用キッチンも置ける。オールステンレス製なので汚れを気にせず調理に専念できる点もうれしい。また、業務用オーブンレンジとプロパンガスの組み合わせで強力な火力が得られる点も魅力だ。多くの設備についていえることだが、定価はあってないようなもの。インターネットで購入すると、オーブンレンジ、シンク、作業台の3点で定価約46万円の商品が約25万円になった。木工事完了後、断熱効果と桟を隠してスッキリとした見栄えにこだわり、和紙を表裏両面に貼った板間用の障子を取り付けて建具工事は完了した。なお、料亭などで見かける周囲の木枠まですべてを和紙でくるんだ「太鼓貼り」とすれば、なお一層スタイリッシュだが、私たちは汚れに対して神経質になりたくないので、そこまではしなかった。発注した工事が次々に完了していく中、私たち親子3人は毎週末現場に行って自ら塗装工事を行った。母屋の室内外には、健康に配慮しながら防虫効果のある天然塗料として近年再評価されている柿渋を塗装した。柱梁が露出して野暮ったいといわれる真壁でも、柿渋に白ベンガラを混ぜて塗装しているので、クールに仕上げることができ、木造軸組の真骨頂である調湿機能を損なわない点は、構法と塗装の最善の組み合わせといえるのではないか。
  また、大量の廃材を廃棄処理することなく薪ストーブの燃料とすることにした。大小様ざまな木材が敷地内に山積みされていたので、それらの汚れを落としてからサンルームに運び、並べて乾燥させた。さらに乾燥後の木材を薪として適当な大きさに丸鋸で切断した。一連の作業は毎週末に行い約3カ月も掛かったが、おかげで薪の量は一冬分は確保できた。丸ごと木で建てた家だからゴミもほとんどが木だ。だから驚くほど廃棄処理の必要なゴミが出なかった。木の家はそれ自体が健康的なだけでなくゴミも有効利用できる、とてもエコロジカルで経済的な建物といえる。なお、いずれは近隣の放置林の倒木を薪用の木材に利用させていただくなど、もっと地域環境と係わっていきたい。知恵と努力の結果、土地+建物の総費用は約1150万円。目標より150万円オーバーしたものの概ね合格ラインといえよう。また、スローな家づくりも本連載のために工事後半はスピードアップしたつもりだ。読者の皆様には、これを参考にマイペースの家づくりを存分に楽しんでいただきたい。

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スローな家づくり

住宅雑誌 NewHOUSE(ニューハウス出版)
2004年5月号掲載

スローな家づくり

第4回 建て主リポート「最終回 暮らし&総括編
写真・文●トランローグ・アソシエイツ

今どきの住宅問題に正面から挑戦

 '97年息子が生まれた週末に仕事を失った私たちだが、なぜか幸福感に満ちあふれていた。スローな家づくりを始めるための、たっぷりの時間を手にしたからだ。
 当時検討していた4500万円のマンションを購入するため、生涯に支払う6000万円。その差額1500万円以下の費用で、会社近くの東京駅から電車で1時間の地域に、土地+建物+その他家具からファブリックまで、必要アイテムのすべてを手に入れることを決めた。また、耐震・断熱・調湿・シックハウス対策などの住宅性能、引きこもりや犯罪の温床となる子供部屋の問題、多額の住宅ローンなど、現代住宅の課題と真正面から取り組んだ。なお、これらの取り組みに隣家への延焼を防ぐ防火仕様を追加すれば、都市型住宅へも応用可能ではないか。そして、不動産会社の大谷さんのアドバイスの下、施主が施工業者に直接発注と支払いを行う直営方式により、結婚後12年間に貯めた自己資金で、健康的でエコロジカルなマイホームを竣工。
 大工さんに木造軸組構法で建ててもらった初めての家をベースキャンプに、将来は約180坪の敷地内に倉庫やゲストハウスをセルフビルドし、菜園をつくる予定だ。
 初めての家の間取りは、日頃から1日の多くを靴を履いて過ごすライフスタイルに合わせて、1階の4分の3(30畳)をコンクリートの土間、残り3分の1を板間(10畳)とする田の字型のプランとし、2階に予備室(10畳)を設けた全50畳の開放的な母屋とした。約150坪の庭があるせいか、親子3人で生活していても狭さを感じることはない。すっかり土間が気に入った6歳の息子は、インラインスケートや卓球を楽しんでいる。庭では専ら地元サッカークラブの予習と復習だ。
 母屋の構造は頑強だ。8寸の大黒柱に4寸の柱と4×8寸の梁の木造軸組を基本構造とし、横胴縁で補強した上から外断熱材と構造下地材を兼ねた36mm厚のJパネルを張る枠組壁構法を併用している。さらに外壁として12mm厚のスギ下見板を、内壁として12mm厚のスギ相じゃくり板を張る真壁仕上げは、断熱性能と調湿性能を最高に高めてくれる。大雑把にいえば、10mm厚の木の断熱性能は、100mm厚のコンクリートに相当するといわれている。すると、空気層の幅(柱幅)を除いて木厚60mmのわが家の断熱性能は、ほとんどのRC造建築を上回ることになる。この冬外気温-2℃の朝、ビニールカーテンでサンルームと仕切った土間は、暖房なしで11℃、板間は12℃だった。快適そのものの冬場だが、今後は夏の暑さとの戦いに備え、陽射しを遮る建具を自作する予定だ。それでも暑ければ、近くの海岸で身体を冷やせばいい。また将来、洞窟のように涼しい夏の家もセルフビルドする予定だ。
 木目が垂直水平に部屋中を走る真壁は野暮ったい、という声をよく聞くが、防虫防腐効果のある柿渋に白ベンガラを混ぜた無害の塗料で塗れば、健康的でクールな仕上げが可能。また、インターネットなどを活用すれば、スタイリッシュな設備機器だってリーズナブルな値段で手に入る時代だ。
 自分たちの目で確認し、結論が出るまで検討を重ねるスローな家づくりなら、超ローコストで高性能、とびきりクールな家も夢じゃない。最後にスローな家づくりのポイントをまとめた。何かのお役に立てればうれしい。(完)